<rss version="2.0" xmlns:content="http://purl.org/rss/1.0/modules/content/" xmlns:wfw="http://wellformedweb.org/CommentAPI/" xmlns:dc="http://purl.org/dc/elements/1.1/" xmlns:atom="http://www.w3.org/2005/Atom"><channel><title>蟲日記 | 霧の丘　Colline de brouillard</title><link>https://hitomi-izuno.themedia.jp/posts/categories/61993</link><description>蟲日記の一覧</description><atom:link href="https://hitomi-izuno.themedia.jp/rss.xml?categoryId=61993" rel="self" type="application/rss+xml"></atom:link><atom:link href="http://pubsubhubbub.appspot.com/" rel="hub"></atom:link><item><title>蟲日記　長い旅路－その１</title><link>https://hitomi-izuno.themedia.jp/posts/609901</link><description>&#xA;&#x9;&#x9;&lt;div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#x9;&lt;img src=&#34;https://cdn.amebaowndme.com/madrid-prd/madrid-web/images/sites/112958/1019b4bcd39dfaedbf09fca04e7b0cf8_0f1fcd57d6d4df9539f31f89b525357f.jpg?width=960&#34; width=&#34;100%&#34;&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;/div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#xA;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#x9;&lt;p&gt;　魔の交差点。写真家はいつしか自分の中で、一見なんの変哲もない国道交差点をそう呼んでいた。午後８時を少し過ぎた頃だったか。長年付き合いのある篆刻家からの急の呼び出しに応召し、師走の寒道、翁邸を目指して蟲を駆った。さすがはドクターズ・カーと呼ばれただけあって、寒日夜間でも一発始動。４年前に乗っていた、毎度チョークを引っ張らなければならないミニとは違い、オートチョークの恩恵を感じる。しかし、気のせいだと何度も思いたくなるほど、その夜は嫌な予感がしていた。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　第六感といえば大仰そのものだが、直感的な、なにか嫌ったらしい空気が流れている。写真家は日ごろからその嫌ったらしい空気を察知することだけは、他にも勝る鋭さを持っていた。その直感が働いてか、できすぎた偶然なのかは分からないが、命に関わるほどの事柄には結果的に無縁といえた。できるだけ気分が乗らないときには動かないように努めてきたからである。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　しかし、その夜だけはそうはいかなかった。４日後に迫った作品展の出品作品数が足りず急に件の翁と落ち合って協議する必要がでてきた。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　対向車線からのハイビームが眼に触る。焦ることもない、いつもの道ではあったが、はやく用事を済ませようと逸った。アクセルペダルを少しだけ踏み込み、クラッチを切る。４速に入れてクラッチを戻した瞬間、ドーン！ といういままで聞いたこともない爆発音が耳をつんざいた。一刹那、後部から大きなものが追突してきたかのような衝撃が背中に伝わった。交差点。衝突事故に巻き込まれたかとバックミラーに眼をやるも、写真家の車しかいない。アクセルを踏み込むと、ズズズズズズズブブブブズズズズブーブーン……とドグラ・マグラさながらの妙に引きずるような音をともなって、車体が前後に振動し始めた。ノッキングを起こしている。クラッチ合わせが悪かったのかと３速に落とすと振動も異音も鳴り止んだ。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　黄……赤。一時停止の遥か前からブレーキをかけ始める。ボボボボボボボ……ボボ……。ニュートラルに戻してはいるが、いつもより早いスピードで回転数が減退しているのが分かる。停止線を前に、蟲特有の空冷エンジン音も完全に沈黙した。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　写真家はとっさにキーを捻ってエンジンをかけなおし、吹かし気味にハンドルを切る。計器にわずか警告ランプが点いたのを見逃さなかった。エンジンオイルが少なくなってきている。なおも吹かしながら２速で走行し、最寄りのガソリンスタンドに飛び込んだ。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　「たぶん、オイルが無くなっているんだと思うんですが、できるだけ硬いのもらえませんか？」……たぶんアルバイト店員なのだろう。きょとんとした様子で「うちではちょっと……壊れたら賠償とかできないですし……そもそもこれ、どこからオイル入れるんですか？」&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　写真家は電話帳と自らの記憶をたどり、数年前に駆け込んだ主治医の店を思い出した。もう営業時間を過ぎていてもおかしくない時間だ。電話をかける手に汗が滲む。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　「大丈夫ですよ！ いまから持ってこれますか？ 駄目だったらレッカーで行きますよ！」やけに高揚とした声が耳元に広がった……………………。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　あれから数時間。意気揚々と作業の手を緩めない主治医の後ろを丁稚小僧のごとく追いかけ廻すも、ひらりひらりとかわされるように根本的な問題にたどり着けずにいる自分の無知を悲観するしかなかった。スパークプラグを入れ替え、オイルをだぷだぷと注ぎ、キャブレターのノブを人差し指と中指で引っ張ってはビスを廻していることだけが確認できる。何をしているのかまったく分からない。そのときだった。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　「よし！ 今日はこんなもんでしょう」&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　どうやら終わったようだ。ほっとする写真家を一瞥した主治医曰く、「あくまで応急処置です。なにも直っちゃいません。しばらくしたらまた同じようなことが起こります」。恐ろしいことを平然とした様子で言い放つメカニックに狂気めいた異彩を禁じえずにはいられなかった。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　「それに、今日は遅くなってお待たせしてしまいましたから、また都合の良い日にお越しください。できれば早いうちに見させていただければきちんと説明して可能な範囲で修理します。あとは、ぼったくりじゃないかってくらいの治療費を請求します。よおくお考えください」。そこにはブラックジャックがいた。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　その日の修理費は５千円ほど。高額治療費の手付金にしては安すぎるし、なにせ閉店時間を遥かに過ぎた対応としては「大丈夫か」と不安にさせるほどだ。ありあまる技術と良心とが信頼を呼ぶ好例をまざまざと見せつけられてしまった。大遅刻となったが、予定も無事にこなせた。もしあのとき電話が通じなかったらと身震いする。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　数日後、主治医の予言は的中した。それも、蟲が沈黙した魔の交差点を前にして。偉大なる預言者は人々をひれ伏させる力を持つというが、まさか身近に経験するとは思ってもみなかった。写真家の自動車が故障するときは、いつも最悪のときに訪れる。よりによって結婚式の打ち合わせに式場へ向かう途中だった。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　後方より容赦なく浴びせられる罵倒のクラクションを背に、羞恥に耐えながら路肩へ車体を押す。うんともすんとも言わない。最中、主治医の声が脳裏をかすめた。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　「また都合の良い日にお越しください」（つづく）&lt;/p&gt;&lt;p&gt;&lt;br&gt;&lt;/p&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;/div&gt;&#xA;&#x9;</description><pubDate>Tue, 08 Mar 2016 15:01:12 +0000</pubDate><guid>https://hitomi-izuno.themedia.jp/posts/609901</guid><dc:creator>伊豆野　眸</dc:creator><category>蟲日記</category><enclosure length="0" type="image/jpeg" url="https://cdn.amebaowndme.com/madrid-prd/madrid-web/images/sites/112958/1019b4bcd39dfaedbf09fca04e7b0cf8_0f1fcd57d6d4df9539f31f89b525357f.jpg"></enclosure></item><item><title>蟲日記　序章ーその２</title><link>https://hitomi-izuno.themedia.jp/posts/581519</link><description>&#xA;&#x9;&#x9;&lt;div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#x9;&lt;img src=&#34;https://cdn.amebaowndme.com/madrid-prd/madrid-web/images/sites/112958/d0c83f2f2a1a9d03a65e8f3538e69b0f_9e06fc5bfd9ff405c64fb47ca6c8ad1f.jpg?width=960&#34; width=&#34;100%&#34;&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;/div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#xA;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#x9;&lt;p&gt;&lt;p&gt;　技術と知識とは相反するが故にバランスが不可欠である。写真家は常々そう心に留めてきたつもりでいた。が、自動車のことについては他の多くの日本人と同様、ほとんど何も知らないし、普通自動車免許（中型）以上の技術も持ち合わせていない。ただ、写真家が少し風変わりだったのは現在市販されている自動車にあまり興味が持てず、彼の眼に止まるのは、何十年も前に基本構造が確立された車種か、あるいは地方都市には極端にディーラーの数が少ないものばかりであった。元来泡銭が手に入ると、カメラやレンズ、写真関係機器の購入費に投入してきたことも手伝って、自然と中古車ばかりを選んでいたことも一部起因している。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　彼が自らの名義で手に入れた初めての自動車は英国ローバー社９６年製のミニ・クーパーメイフェア（１．３ｉ）であった。予てより車を所持するようになったら、そのヤーライ式流線型ボディの魅力をもって、西ドイツ製のフォルクスワーゲン・Type１（ビートル）を求めることに決めていた。元来、維持するための知識や技術など考えることもなかった。まさに悲劇である。２０１０年夏、勇んでアパート近くの中古車業者に相談しに行くと、予想通りそこに実車はなかった。全国の中古車業者に照会してもらう段取りをつけて店から出たときだった。眼が合ってしまったのである。真っ赤な光沢の、小さなボディが真夏の太陽を一身に受けているとさえ思えた。すぐさま引き返し、試乗を頼んで、その日のうちに契約した。いま思い返せば、間違いなく若気の至りであるが、とんとん拍子にことは運び、翌週には納車となった。金額にして４０万円弱。そのほとんどが車検代であったことは言うまでもない。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　パワーステアリングなどない。恐ろしく小さな車体であるが、小廻りの利かない車であった。しかし、写真家は非常に気に入っていた。泣く子も黙るほど無茶な乗り方をしたことが、当時の彼の日記から想像できる。極限にまで絞り込まれたフォルムに１３００ccものエンジンが搭載され、大人４人が何とか乗り込める設計に潔さを感じていた。一般に旧ミニ（ＢＭＷ社傘下後の新ミニは、ミニではなく「デカ」とでも名付けるべきだ）は、その安全機構のなさから「走る棺桶」と呼ばれている。そのソリッドな思想も彼の性格上の破綻から「最良の選択」と変換されていた。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　冷却水漏れで煙を出しながら止まったこと、クーラー用のベルトの設置が悪くスイッチを入れた瞬間からけたたましく鳴き始めることには眼をつぶった。この車には良く乗った。２年後に悲劇を経験するまでは。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　２０１４年夏。いつものように、後の妻を助手背に乗せて走っていると、急に異音がし始めた。凸凹道で急加速・急停止を繰り返していたわけではない。「ギャギャギャギャ！」と明らかに好ましくない音がタイヤ周辺からとどまることなく聞こえている。運悪くその日は購入した中古車業者が定休日。急いで複数の知人にどこか良い修理工場がないか聞いて廻るも、旧車をきちんと扱える場所は思い浮かばないという。しかし、捨てる神あれば拾う神あり。「もしかすると」くらいの話で一件だけ見つかった。それが主治医との出会いとなった。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　診断結果は驚くほど単純かつ複雑だった。ベアリング部分の４つともに石が詰まっているとのこと。そして、思わぬことに、その石が重要な箇所を数点破壊してしまっていること。異音は徐々に破壊される部品の断末魔ということであった。修理価格はおよそ３０万円。親切にも、最寄りの修理工場でも対応できるようにと、診断書を無料で書いてくれた。当時大きな支払いの直後で預金がなかったこともあり、暫く知人の自動車販売業者で預かってもらうことにした。問い合わせると、知人のメカニックでも対応できるとのこと。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;悪い癖が出てきた。「この車にあと何年くらい乗りたいのか」、急に分からなくなってしまったのだ。愛着をもって触れてきたものに、恐ろしく冷淡になれるのもまた、彼の特性である。特に道具に対してはことさらその特性は強く生じるように思える。自分の手や眼の延長だと思えるほど慣れ親しんだカメラでさえ、急激に興味を失うことがままある。彼の中では明白に、時々に合わせて「最良」をその岐路ごとに選択しているに他ならなかったが、理解できる人間が一握りしかいないこともまた事実である。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　しばらくして、知人から修理するか否かの催促の電話があった。気乗りしない写真家ではあったが、人に迷惑をかけられないと思い立ち、重い足を引きずるように電話の主のもとへと向かった。道中、「しばらく金ができるまでは車のない生活も良いかな」と自らを納得させようとしていた節がある。そんな矢先、また眼が合ってしまった。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　昼下がりから降り始めた雨がしとしとと幌を濡らす。暗がりにブルーが映える英国ロータス社2003年製エリーゼ・フェイズ２の姿があった。ローバー社製1800ccエンジンを搭載した最後期モデルだったように記憶している。写真家の別の「悪い癖」が出ようとしていた。目の前にある新しいものを「最良」と捉えるご都合主義的な思考回路の構築は、稲妻より早く彼の脳天に達していた…………。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　結論から言えば、「悪い癖」で手に入れたエリーゼは２年も経たぬうちにコンクリート塀に衝突させ、FRPボディの性をまざまざと見せつけることに成功した。見るも無残に割れたボディの修復費は実に福沢諭吉翁１２０人分に近くとも遠からず。目の玉が飛び出そうとはこのことで、あまりに高額な支払いに尻込みしてしまい、泣くより早く手放すこととなった。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　エリーゼの「最良」については、この日記にわざわざ記さずとも他の手記が雄弁なのに任せるとする。一言だけ私見を弄すれば、その大きな特徴は動物的な、正に野生を提供してくることだろうか。あるメカニックは語る。「ポルシェがより遠くまで、もっと遠くまで足をのばしたくなる車なのに対して、エリーゼは近くでハラハラしたい車。これ、いい意味ですよ！」とのこと。そうかもしれない。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　こうして写真家は３台目の車を購入するための切符を手に入れた。悲観すべき事態ではあったが。ただ、それが長く過酷な旅路になろうとは、川縁でごっそりバンパーの落ちたエリーゼを眺めるこのときの彼に予想せよということ自体、まったく不可能な話である。（つづく）&lt;/p&gt;&lt;p&gt;&lt;/p&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;/div&gt;&#xA;&#x9;</description><pubDate>Mon, 29 Feb 2016 13:28:41 +0000</pubDate><guid>https://hitomi-izuno.themedia.jp/posts/581519</guid><dc:creator>伊豆野　眸</dc:creator><category>蟲日記</category><enclosure length="0" type="image/jpeg" url="https://cdn.amebaowndme.com/madrid-prd/madrid-web/images/sites/112958/d0c83f2f2a1a9d03a65e8f3538e69b0f_9e06fc5bfd9ff405c64fb47ca6c8ad1f.jpg"></enclosure></item><item><title>蟲日記　序章ーその１</title><link>https://hitomi-izuno.themedia.jp/posts/558120</link><description>&#xA;&#x9;&#x9;&lt;div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#x9;&lt;img src=&#34;https://cdn.amebaowndme.com/madrid-prd/madrid-web/images/sites/112958/85c399afd792fb728dcb50530c019166_ce9ec8e70852d400c83c76d7f90822a3.jpg?width=960&#34; width=&#34;100%&#34;&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;/div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#xA;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;div&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&#x9;&lt;p&gt;「ものすっごくオイリーですね！」&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　蟲の下に潜り込んでいた主治医が叫ぶように言い放った。時折エンジン音で言葉の端が掻き消されるが、問題点の全容は聞き取れる。年齢の分からない白髪にBOSHのメカニカルジャンパー、節立った指からは、もう何台もの蟲を手術台の上でさばいてきた様子がわかる。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　ボボボボボ……ボボボズズズボボ……&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　蟲の尾に付いた1200ccD型エンジンから流れて来る咳込んだような異音混じりのアイドリング音が耳を突く。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;「ダメですか？」つい半年前に購入したばかりの中古車の行末。顔に不安の色を隠せずにいる。無理もない。購入時、「一応の点検」と言われ知人の自動車屋から３ヵ月経っても手元に来ることのなかった機体であった。しびれを切らし半ば奪い取るように持ち帰ったが、老メカニックから一言、「エンジンの調子は悪くないんですがね」。安かろう悪かろうとは言うが、どのくらいのものか一切分からず仕舞いで納車となった。分かっているのは、1975年西ドイツ製、フォルクスワーゲンtype1、1200ccスタンダード、D型という車検証に書いてある文字情報だけである。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　ボボンボボン……。バス…。「あ、止まった」。今の自動車では考えられない状況が眼の前で起きていた。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　交差点でアイドリングしなくなる。三速から二速に落とす際にギヤアと鳴く。坂を登ればノッキングを起し、後部から他の車に追突されたような衝撃が来る。スピードを落とすとエンジンが止まる。フューエルタンクをガソリンで満タンにしても、メーターが3／4ほどしか指さない。ハザードランプが付かない。カーラジオがつかない（CMコンポなんてない！）。と、挙げれば切りがない。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　主治医とともにエンジンルームに目を配らせるがその実、ほとんど何をチェックしているのかすら分かっていない。それほどの素人である。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　クラシックカーと言えば聞こえは良いが、「40年落ちの輸入車」と言えば、それも納得してしまえる。何年落ちと、クラシックカーとの呼び名の境い目ははっきりとしていないことが良く分かる。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　主治医がラチェットレンチをガリガリ廻して黒いエンジンの端から瞬く間に四本のドリルの先っぽみたいな白色の部品を取り出した。接続部と思しきネジ。その中心部が黒く焼けている。「火の飛び方がおかしいんでね。見てもらえれば分かりますが、四気筒車なのに、一つ死んでますね。いま、三気筒です。」とても面白いことのようだが、何を言っているのか分からない。「あとね、番号がちがいますね」と。どうやらスパークプラグと呼ばれる点火部品の不調という意味らしい。「これね、私たちはベスパに使うやつが入ってるんですよ、いま。」ベスパ！？　耳を疑うとはこのことだ。普通車の部品が50ccスクーターで代用できるものなのか、目の前が暗くなりそうだった。主治医はなおも傷口をえぐりに来る。「そりゃあ火は飛びますがね。異常ですよ。少し見ただけで、やっつけ仕事、到底玄人が触ったとは思えませんね。何となくエンジンを始動させるのに成功したレベルです。」とても嬉しそうに話す。いま、主治医の眼前には、格好の被験体が止まっているのだろう。「色々間違った修理をしちゃってますね！　ええ、どこから触ればいいのか分からない！」尚も嬉しげである。一瞬ゴミ山かと疑いたくなる作業部屋で主治医は、ダンボールを引っ掻き廻しながら「正しい番号」のプラグを四本出してきて手際良く収めた。鍵を廻すと、蟲に火が付く。プオオオ……ドルン…ボボボボボ…………。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　今度はすぐにエンジンを止め、工場の方へと消える。作業部屋の奥とつながっている広々とした工場。何台ものクラシックカーが並ぶ。ポルシェ911、MG、スバル360、ルノー4、シトロエン……。どれも修理中だ。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;　暫くして、主治医はポットに粘度の高そうなオイルを入れて揚々と戻ってきた。&lt;/p&gt;&lt;p&gt;「納車半年ですよ？まだ指定された走行距離に達していないんですが。」そう訴える私を見返しながら、にこりと「もうその数値意味ないですよ！ほとんど抜けてますから！」よくもこれまで走れたものだ。写真家は黒光りする蟲の尾を眺めているしかなかった。（つづく）&lt;/p&gt;&#xA;&#x9;&#x9;&lt;/div&gt;&#xA;&#x9;</description><pubDate>Sun, 21 Feb 2016 15:19:20 +0000</pubDate><guid>https://hitomi-izuno.themedia.jp/posts/558120</guid><dc:creator>伊豆野　眸</dc:creator><category>蟲日記</category><enclosure length="0" type="image/jpeg" url="https://cdn.amebaowndme.com/madrid-prd/madrid-web/images/sites/112958/85c399afd792fb728dcb50530c019166_ce9ec8e70852d400c83c76d7f90822a3.jpg"></enclosure></item></channel></rss>